交通事故の被害者を担当した弁護士の体験談を紹介します。

交通事故42

私は関東地方の法律事務所に勤務する45歳の男性弁護士です。交通事故に関する相談を主に受け承っています。この仕事をするようになって15年が経過しましたが、交通事故を通して多くの人の人間模様を垣間見ることができました。

人間というのは想定外の交通事故が起きたときこそ、その人の本性が表れるようです。今回は交通事故の被害者にスポットライトを当てて、それを取り巻く人の様子と共に私の体験談を紹介します。

関連記事:交通事故の補償は被害者は無職だとどうなる?損害賠償請求などについて解説

ありのままの証言を得られるかどうかで、解決までのスピードが変わってきます

交通事故というのは事故が起きたときの状況を当事者が正直に話してくれれば、解決するまでの期間が短くなります。ちょっとした接触事故であれば、なおさらです。その一方で加害者が事実を偽り自分に有利になるようなことを話せば、被害者との食い違いが生じ、その案件は泥沼化していきます。

交通事故の概要に大きな食い違いが生じました

今から8年前、交通事故の被害者からの案件を担当した際、加害者の専門学校生が本当のことを話してくれずに戸惑った経験があります。まずは交通事故の概要を説明します。被害者は片道2車線の国道の左車線を軽自動車で走行していました。

しばらく走行していると左車線に渋滞が生じたので、右車線に移動しようとして後方確認をしました。トラック5台分くらいの間隔があったため、車線変更はスムーズにできたのですが、1分くらい走行したら右車線の後方から来たワゴン車に追突されたのです。

この概要からは一般的な追突事故であるかのような印象を受けますが、この事故は簡単には解決しませんでした。加害者が加入している保険会社の担当者から私の事務所に連絡が入り「事故の概要の確認ですが、弊社のお客様は軽自動車と平行かそれに近い距離で走行していたときに無理な車線変更をされて追突したと話しています。

軽自動車のドライバーが後方確認を怠ったために起きた事故であり、そちら側の非は100パーセントだと考えています」と言ってきたのです。被害者は「これは真実じゃない!」と猛反発しました。被害者からの報告と全く違う事故の概要を聞かされ、私は直感でその専門学校生がウソをついたと思いました。

これは決して自分のところに来た顧客を擁護しているわけではなく、軽自動車に付いている追突の跡から被害者のほうが本当のことを証言していると判断したのです。私はワゴン車のドライバーが運転中にスマホの画面を見ていたりして、軽自動車の存在を認識するのが遅れたためだろうと推測しました。

しかし加害者はいつまでたっても、自身の過失を認めないのです。

関連記事:交通事故の被害者必見!病院費の支払いに使える保険と補償の範囲

この交通事故は裁判にまで発展しました

双方が非を認めないまま1カ月が経過したころ、裁判所からの通知が被害者の自宅に届きました。しびれを切らした専門学校生が、次なるアクションを起こしたのです。被害者は「トラック5台分くらいの間隔が絶対にあったから私は車線変更をしたので、裁判沙汰になっても構いません」と言ったので、私たちは裁判を受けて立つことにしました。

裁判当日、その専門学校生は入廷してきませんでした。証言台で話したのは保険会社の担当者のみだったのです。私たちはかなり拍子抜けをしました。裁判官は今回の事故に該当する道路交通法を読み上げるだけです。結局、どちらも証言を変えなかったので、判決は2回目以降の裁判に持ちこされることになりました。

最後は保険会社の担当者が専門学校生を説得してくれた

2回目の裁判の直前になって、被害者側にどうしても外せない仕事の用事が入ったので、私は2つの書類を裁判所に提出しました。1つは別の日に裁判を設けてもらうための“延期の理由書”という書類です。そしてもう1つの書類は今回の交通事故に対する私の見解です。

「専門学校生が事故の状況を偽って保険会社に伝えているために、複雑化しています。事故直後に車についた傷の場所からもわかるように、今回の件はどう考えてもこちら側が正確な事故の状況を語っています」といった旨を記載した書類を裁判長宛てに提出しました。

すると保険会社もこの書類と車についた傷の場所がわかる写真を見たようで、担当者が私のところに打診をしてきました。「こういう展開になると、私どもにもう勝ち目はありません。私のほうから専門学校生を説得しますので、今回の事故は2対8の過失割合で手を打ちませんか?」と言ってきたのです。

保険会社の担当者に理解があったおかげで、この追突事故は一気に解決に向かいました。解決後に被害者は「あの専門学校生はいくつかの虚言をしたことで、結果的にたくさんの人を振り回してしまった。そのことについてはどう思っているのだろう…」とボヤいていました。

保険会社の担当者から聞くところによると、あの専門学校生は卒業後に入社する会社が決まっていて、交通事故の加害者になったことが会社に知られると内定が取り消しになると思い、つい保身に走ってしまったようです。

関連記事:交通事故被害者の遺族ができる損害賠償請求と相続税

後遺障害が心配でも加害者との交渉を進めましょう

追突事故とは別案件ですが、交通事故の被害者の中にはスピード解決を望まない人もいました。すぐに解決したがらない理由を聞くと「後遺障害のことが心配で…」という答えが返ってきたのです。後遺障害とは、事故直後には症状がなかったのにしばらくしてから症状が表れる障害のことです。

しかし私の長年の経験からすると、交通事故の解決を先延ばしにするのはベターな判断だとは思えません。事故直後には予見していなかった障害がしばらくしてから発見されたとしても、加害者側がその治療費をすんなり払うケースは少ないからです。

そして交通事故と後遺障害との因果関係を証明するために、結局は裁判沙汰になることが多いのです。交通事故の被害者になってケガをしたら、まずは医師から診断書をもらい、その診断書をもとにして加害者側と交渉を重ねましょう。

後遺障害のことをいつまでも考慮しているうちに、事故直後のケガに対しても「それはホントに事故と関係しているのか?」と疑われてしまうケースもあるのです。それでも後遺障害が心配なのであれば、“後遺障害が発生した場合は、別途で協議の場を設ける”という一文を示談所に盛り込んで、交渉を進めていくことが推奨されます。

これは私がたくさんの交通事故の被害者と接してきたからこそ、言えることなのです。

関連記事:交通事故被害者電話相談は誰でも利用できる?サービスの特徴や利用方法のまとめ

ドライブレコーダーのおかげで真実の証明がしやすくなった

今回紹介した追突事故の事例は8年前のことで、一般車にはあまりドライブレコーダーが搭載されていませんでした。今はドライブレコーダーが一般車にも普及しているため、弁護士の負担もかなり軽減されました。交通事故の加害者が事実と異なることを話したとしても、ドライブレコーダーが真実を証明してくれるからです。

負担が軽減されたからこそ、私はひとりひとりの被害者とより深く向き合っていきたいと思っています。